自分が、相手が、食べて美味しいものを。
筑前堀の、食との向き合い方。
文 / 写真=時川碧海
ほっと息をつきたくなる、そんな筑前堀。
今宿の山の麓に、昔ながらの日本家屋、素敵なお食事処があります。
和食からフレンチまで、幅広く手がける女将、吉田紀子さんにお話をお伺いしました。
はじまり
食べることが、とにかく好きだったという紀子さん。中学・高校時代もお菓子作りに励んでいたと言います。大学は文学部に進学し、食品を取り扱う会社に就職しましたが、どうしても、”完成品の活用でなくて、ゼロから自分で作りたい” という想いで退社。本格的な料理人の道を、歩み始めました。
念願の料理人への道
常連さんだったフランス料理店の夫婦に、フランス旅への同行を提案されたのをきっかけに、フランス料理店で働くこととなります。フランス語を話すことも書くこともできない中、メニューを見て覚えるなど道中の様子から、スカウトされたそうです。3年の修行の末、お肉を焼けるようにまで上達し、取材記事ではお店の顔となりました。
好きなことだから頑張れる
「女性料理人選手権」に出場し優勝したことで、フレンチの本場での修行ができる切符を手に入れることに成功。半年間の修行が始まりました。男性社会であったフレンチの調理場。18歳くらいの男の子たちと共に修行した頃の写真を見ると、「本当に男の子ばっかりの中頑張ってたんだね」と驚くくらい、とにかく毎日が戦場だったようです。
どこまでも続く、自分らしさの追求
帰国後、餃子屋さんで再会した大学の先輩とのご縁で結婚。現在の筑前堀の女将となりました。そこでの自分らしい料理の提供とは、という問いからたどり着いたのが、ケータリングサービス(出張料理)です。相手を想い、好みや体調を聞きながら、日本食はもちろんのこと、フレンチやヘルシー料理など様々なリクエストに応え料理すると言います。「その先にある、相手の喜ぶ顔が見たいから」この想いから試行錯誤しつつ、行き着いた今日。ずっと取りたかったというワインソムリエの資格も取得し、人に合わせた料理の提供を行っています。
これからの挑戦
外郎(ういろう)伝来の地である福岡で、「博多ういろう」を作り販売する挑戦をしています。もちもちとした食感は、時代に合わせて誰もが美味しいと楽しめる工夫です。
「私が美味しいと思う料理」というだけでなく、「お客さんと、美味しいと思える料理」の提供を、という想いで料理を提供しているというところが印象的な吉田さん。学んだ料理の型に囚われず、柔軟にお客さんを第一とした料理は、今回お話しをお伺いしてさらに魅力的に映りました。こうしたい、こうでありたいという想いを軸に、柔軟に理想を追い続けられる姿勢と行動力は、聞きながら背筋が自然と伸びました。